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    松代の清水寺で出会ったものは、、

    - - - 清流さくらこ
     
    長野は松代にある清水寺は、とても静かな環境の中にある。

    山の麓、いや中腹にあって、穏やかな空間の中にある。
    森林がひっそりとしている。
    京都や東京の有名なパワースポットとして紹介されている神社
    やお寺さんとは違い、世間慣れしていない、田舎な感じでそこにあった。

    タクシーを降りて山門を潜り、中に入らせて頂く。
    誰もいない。
    そりゃそうだ。
    こんな山の中のそれほど有名でもない(すみません、パワースポット
    として騒がれていないという意味です)お寺には平日だし、普通は誰もいない。
    でも何だかとても懐かしい気がした。

    なんでだろう?
    分からないけれど、懐かしいと思った。

    最初に横の小さなお堂に入らせてもらった。
    お堂の中には不動明王が祭られていて、ここは護摩焚きのお堂のようだ。
    でも、やはり田舎らしい。
    田舎らしいという言い方は、私からしたら褒め言葉だ。
    田舎らしいお寺さん、ということです。

    両手を合わせてお参りをさせていただく。
    そこでは特にメッセージはなかった。
    お堂を出ると、そこには中年の女性が立っていた。
    このお寺の方らしい。

    「こんにちは」
    と挨拶をすると、ようこそいらして下さいました。
    という、とても感じのいい笑顔を見せて話しかけてきてくれた。

    「本堂の中を見ますか?開けましょうか?」

    「ええ。ぜひお願いします」

    と言うと、女性は急いで宿坊のような小さな家に小走りで行った。
    直ぐに鍵を持ってやってきた。
    そして合掌してから本堂の鍵を開けてくれた。
    鉄の扉を開けると、そこには私がずっと会いたかった千手観音様が
    凛とした面持ちで立っていらした。

    ああ、これが見たかった。
    この千手観音様に会いたかった。
    ああ、良かった来れて、、、。

    暫く両手を合わせて祈っていると、女性が色々と話をしてくれました。
    この仏像の由来や歴史、、、。
    私は聞きながら何度も頷く。
    うん、そうそう、なぜ私がここに来たのかわからなかったけれど
    でも今はわかる。

    「ご祈祷、お願いできますか?」

    私の突然の言葉に、女性はちょっと驚きながらも「はい。できますよ」
    と快く答えてくれた。

    「では先ほどお渡しした1万円でお願いします」

    私は拝観料の500円がなくて、1万円でお釣りをくださいって
    言って女性に渡していたんです。
    急にご祈祷をしたいと思った私の思いつきに、
    女性は嫌な顔一つしないで「住職にお願いしてきますね」
    と言って先ほどの宿坊の方へ走って行った。

    一人になった私はシーンと静まり返ったお堂の中で改めて千手観音様
    と向き合った。
    特別、何かメッセージをもらおうと思ったわけではない。
    ただその心に触れたいと思った。
    刹那、、、

    「清流さん。貴方の人生はこれからです」

    と、心の中に浮かんだ。
    これから?
    これからなの?と正直思った。
    もう終わったかしら?と思っていたので、はい。
    それ以外は何も伝わって来なかった。

    暫くすると住職が急いでやってきた。
    黄色い綺麗な衣を着けた、まだ若い住職さんだった。
    裸足で寒いお堂の中に上がり、タクシーを待たせていると言った
    私の為に、特別に般若心経を読み上げて下った。

    とても美しい旋律の音だった。
    若々しい男性の声がビーンと響き渡り、清々しさがお堂の中に満ちた。
    こんなに初々しい般若心経ってあるんだ。
    心の中の靄が一気に晴れていくのがわかる。

    私はただじっとお経に耳を傾け、両手を合わせて合掌していた。
    お経が終わると、住職が言った。

    「あの、お時間がないということだったのですが、、、
    こんな感じでいいでしょうか?」

    「はい。ありがとうございます」

    住職さんは私にお守りを渡してくれた。
    私はそれを受け取ってお礼を言うと、急いで靴を履いた。
    タクシー、待っててくれるかな?
    こんな山の中で置いていかれても困るし。
    なんて思っていたけれど、まあそんなこともないか。

    「あの、お釣りを、、、」

    と、住職さんが言った。

    「いえ。お釣りはいいですので、どうかそのままお納め下さい
    ありがとうございました。
    突然に、お忙しい中すみませんでした」

    私がそういうと、住職さんはちょっとびっくりしたような顔をした。
    お釣りはいいですってことに驚いたようだ。
    きっとこの辺りではご祈祷に1万円を出す人がいないのだろう。
    そう察した。

    お堂から出ると
    先ほどの女性が帰りに道を塞いでいた軽トラックを動かしてくれた。
    雛人形が軽トラックの後ろに山のように積まれていた車があったのでは
    私に申し訳ないと思ってくれたのだろう。
    私はありがたいと思った。
    そしてそんな心遣いが素直にうれしかった。
    心に沁みた。

    「突然にすみませんでした。ありがとうございました」

    「またいらしてください。突然でもいいですので、、ぜひ、、」

    若い住職さんが仰った。
    そのはにかんだような笑顔を見て、またこのお寺に来たい。
    いつか来ようと思った。
    こんなに心地よく迎えてくれるお寺は貴重だと思った。
    大事にしたいと思った。

    「はい、また来ます、ありがとうございます」

    そう言ってお守りを受け取り、私はタクシーに乗った。
    若い住職さんと女性の方はずっと見送ってくれた。
    そしてタクシーで走り去る私に向かって、二人で両手を合わせて
    祈ってくれている。
    まだ肌寒い中、私が乗ったタクシーが大きな道路に出るまで
    ずっと見送ってくれている。
    そして両手を合わせて祈ってくれていた。
    感謝の祈りだろうと思った。

    とても美しい光景だった。
    山の風景の中で凛と光り輝く玉のようだった。

    私はその様子を見て私は心の奥底から今までずっと忘れていた
    ある感情がこみあげてくるのを感じていた。

    ああ、ずっと忘れていた。
    この感情を。
    この気持ちを。
    この感動を、、私はずっと忘れてしまっていた、、、。

    突然の来訪者。
    一万円のご祈祷。

    それはきっとこの清水寺では滅多にないことなのかもしれない。
    そしてその気持ちを素直に現した二人の清々しい姿に
    胸が熱くなってしまった。

    私は大事なことを忘れていた。
    都会の中で生活をしている内に、大事なことを忘れてしまったんだ。
    人様に感謝をする。という心をいつの間にか忘れてしまっていたんだ。
    なんで忘れてしまったんだろう?
    こんな大事なことを、、、。
    一番大事なことを私は忘れていたんだ。

    私はタクシーの後部座席に座ったまま、祈る二人の姿を思い出し
    溢れる涙を止めることができなかった。
    心が嬉しさと感動で溢れていた。
    私はいつの間にか泣いていた。
    すると不思議なことに
    ずっと心の中にあった、蟠りのような塊が消えていく。


    一万円を稼ぐということは、あれほどに気を使うということなんだ。
    あれほどに感謝し、そして祈るってことなんだ。
    両手を合わせて感謝する。
    その姿の美しさに、私は衝撃を受けてしまった。

    ああ、、、、、そうだった。
    ずっと忘れていた。
    この感動を忘れていた。
    この気持ちを忘れていたんだ。


    うまく言葉では書けないけれど、私は自分のやってきたセッション
    について深く考えた。
    私のセッションを受けに遠くからわざわざ来てくれるクライアントさん。
    みんな高いセッション代金を当たり前のように
    来れて良かったと言って嬉しそうに支払ってくれているけれど
    その代金を稼ぐにのどれほどの努力と忍耐が必要であるか。
    私はそのことを忘れていたように感じて
    自分で自分が恥ずかしく思えてしまった。

    当たり前であったことが当たり前でなかったのかもしれない。
    でもそのことに気づかず、私はいつも先ばかりを見ていた。
    いつの間にか全てが当たり前になってしまって
    心からの感謝を忘れてしまっていたことに気づいた時
    私は本当にここに来て良かった!と思った。

    今、この時期に、この時に、私がこの松代の清水寺に来る
    ことはもうずっと過去からの約束事なのかもしれない。
    決まった未来だったのかもしれない。
    だとしたら、なんて素晴らしいタイミングなんだろうと思った。

    ちょっと前の私だったらあの二人の心の美しさにも自分に今
    何が足りないのかも分からなかっただろう。
    気づかなかった。
    今のこの状況の私だったから、今の自分に何が足りないのか
    何を思い出さなければならないのかを知ったのだと思う。
    思い出すべきものが何なのか、きっとわからなかった。

    今の私だから気づくことができたんだ。


    ありがとうございます。
    また来ます、絶対に。
    どうかそれまでお元気でいらしてくださいね。


    私はじっと目を瞑ったまま、心の中でそう誓った。





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